特別顧問
松村 暢隆(まつむらのぶたか)関西大学名誉教授
【経歴】
京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。2020年度まで関西大学文学部教授。
専門は発達・教育心理学、才能教育、2E教育。
文科省の「特異な才能のある児童生徒の指導・支援に関する有識者会議」の委員を務めた(2021~22年)。2023年度からの文科省「特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」にも関わっている。
1992年度と2003年度に在外研究でコネチカット大学を訪問して、わが国では先駆的に才能(ギフテッド)教育の研究を行ってきた。近年とくに2Eなど「困っている才能のある子ども」の指導・支援に探求の重点をおいている。
【主な著書】
『才能教育・2E教育概論』、『2E教育の理解と実践』(編著)、『才能と教育』(共著)、『認知的個性』(共編著)など
【主な訳書】
『個性と才能をみつける総合学習モデル』((レンズーリ)、『MI:個性を生かす多重知能の理論』(ガードナー)など。
詳しくは松村先生が運営する「2E教育フォーラム」のウェブサイトをご覧ください。
メッセージ
この度、「一般社団法人 日本スクールワイド・エンリッチメント・モデル(SEM)協会」が設立されたのは、誠に喜ばしいことです。私は1992年、在外研究の折にコネチカット大学でレンズーリ教授らのSEMに接して以来、日本で「全校拡充モデル」と呼んで紹介してきました。
本サイトの「SEMについて」のページで説明されているように、SEMは才能教育に端を発しながら、すべての子どもたちのための個別化・個性化教育のモデルとして普及してきました。日本では誤解されることもあるのですが、SEMに限らず通常の学習課程(カリキュラム)を拡げて充実させる「拡充」(エンリッチメント)は、通常学級外の特別な集団でのみ行われるものではありません。SEM全体図の「学校の構成」の次元が示すように、指導・学習の場として、あくまで通常学級での教科や総合的な学習の時間がベースとなり、学校内の他の学習集団や学校外の学びの場と連携するのです。
ちょうど現在、文科省が主導して全国の学校で「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指した取り組みが進められています。通常学級をベースに、一斉指導に代わって、自由進度学習や自由探究学習など、代替の学習方法が試されています。そこでは通常の学び方では進度が遅れたり進みすぎたりする子どもも、インクルーシブに個人の特性に合わせた最適な学びを進められます。「才能のある子ども」を選り分けて別途特別な指導をしなくても、すべての子どもの才能を伸ばし活かす取り組みの中で、特に優れた才能も最適に伸びることができます。レンズーリ教授が好む格言では、「上げ潮ですべての船が浮かび上がる」のです(“A rising tide lifts all ships”)。
文科省が新しく開始した「特異な才能のある児童生徒の支援」の事業でも、才能のある子どもをラベル付けて特別な指導を始めるのではなく、教室をベースとした「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」が目指されています。しかし学校内では多様な才能への適切な対応が十分に行えないため、また不登校になってしまう才能のある子どもも少なくないため、学校外での多様な学びの場との連携の在り方が追求されています。
「日本SEM協会」の取り組みは、まさにこの学校外での取り組みの優れて有効な在り方を示すでしょう。知久麻衣さんが開発された「おうちSEM」では、SEMの指導実施の中心要素である「ETM」(拡充三つ組モデル)を正統な理念・方法で実践することができます。家庭をはじめマイクロスクールやオルタナティブスクール、フリースクールで、レンズーリ教授らからも正式に認められている「日本SEM協会」の指導・支援をきちんと活用して、より多くの子どもたちがより適合した学び場で生き生きと学べるようになることを願っています。
Special Supporters
Dr. Joseph S. Renzulli
ジョセフ・S・レンズーリ 教授
【経歴】
才能教育のリーダー、パイオニアであり、才能教育の教育方法をすべての生徒に適用している。アメリカ心理学会において、世界で最も影響力のある心理学者25人に選出。教育界の「ノーベル賞」とも言われる、ハロルド・W・マグロウ・ジュニア・教育革新賞を受賞。ホワイトハウスの才能教育タスクフォースのコンサルタントを務めた。才能の三輪概念、拡充三つ組モデル、カリキュラム短縮と個別最適化(differentiation)に関する研究は、1970年代における先駆的な取り組みである。専門的な文献に数百の書籍、書籍の章、論文、モノグラフを寄稿。その多くは他言語に翻訳されている。5,000万ドル以上の研究助成金と、さらに専門能力開発および奉仕事業のための数百万ドルの助成金を受けている。
同僚の教育心理学教授サリー・リースとともに、拡充ベースの個別最適化された授業に関する毎年恒例の夏期講習会「コンフラテュート」を立ち上げ、1978年以来、世界中から35,000人以上の教師が参加した。
将来有望な高校生が、一流の科学者、歴史家、芸術家、その他の最先端大学の研究者と肩を並べて研究ができる、夏期プログラムの「UConnメンター・コネクション」も設立。さらにリースとともに、「ジョセフ・S・レンズーリ・ギフテッド・アンド・タレンテッド・アカデミー」をコネチカット州ハートフォードに創設した。(同アカデミーは、潜在能力が高く低所得層の生徒を対象とした、地域および全米の都市部の学校改革のモデルとなっている。)
最近は、生徒一人ひとりの能力、興味、学習スタイル、好みの表現方法のプロフィールを提供する、オンライン個別学習プログラム(レンズーリラーニング)を手がけている。このユニークなオンライン・プログラムには、多重コード化されたリソースと、生徒のプロフィールをマッチングさせる検索エンジンがある。また教師はそのプログラムを利用して、生徒が没頭できる拡充活動を選択して、標準カリキュラムのあらゆるテーマに組み込んでいる。
Dr. Sally Reis
サリー・M・リース 教授
【経歴】
レティシア・ニアグ(Letitia Neag)教育心理学寄付講座主任。評議員会卓越教授。元ニアグ教育学大学院学術担当副部長。国立才能教育研究センター主任研究員、教育心理学部門長を歴任。全米才能教育学会元会長で、20年以上にわたり理事を務めた。コネチカット大学勤務以前は、公立学校で学級担任と経営者を務めていた。
270以上の論文、書籍、書籍の章、モノグラフ、専門報告書を執筆・共著し、過去15年間で6,000万ドル以上の助成金を獲得した研究チームに所属。学問的才能のある生徒と強みに基づく教育方法に関する研究は、多数の論文や著書などにまとめられているように、多様で幅広い。
専門研究の中心は、才能のある生徒の多様な人口集団や、才能と障害を併せ持つ生徒の教育、才能のある女子生徒と成人女性の教育、すべての生徒の教育を強化するためのエンリッチメントと強みに基づく教育方法の活用に関する。
UConn評議員会卓越教授や米国心理学会第15部会のフェローに選ばれるなど、多数の賞を受賞している。
Dr. Del Siegle
デル・シグリー 教授
【経歴】
コネチカット大学リン&レイ・ニアグ( Lynn and Ray Neag)才能開発寄付講座主任。国立才能教育研究センター(NCRGE)所長。全米才能教育学会(NAGC)の元会長であり、2021年創立者記念賞、2018年卓越研究者賞、2011年特別功労賞を受賞。2016年、デンバー大学よりパルマリウム賞を受賞。(パルマリウム賞は、米国および世界中で、才能が理解され、受け入れられ、体系的に育成される未来のビジョンを最もよく体現している個人に毎年贈られる。)
「Gifted Child Quarterly(GCQ)」「Journal of Advanced Academics(JOAA)」の元共同編集者。「ギフテッド&タレンテッド教育」第6版および第7版を、ゲリー・デイヴィス、シルヴィア・リムと共著。「The Underachieving Child: Recognizing, Understanding, & Reversing Underachievement」の著者。「Gifted Child Today」にテクノロジー・コラムを執筆。
コネチカット大学ではニアグ教育学大学院教育心理学部門長、同大学院副科長(研究・教務担当)を歴任。才能教育をテーマに100以上の論文、書籍、書籍の章を出版している。
【共同メッセージ】
We are so pleased to see the interest in our Schoolwide Enrichment Model (SEM) in Japan. The SEM is a product of almost four decades of research and field-testing, and it emerged from earlier work on the previously developed Enrichment Triad and Revolving Door Identification Models. The SEM has been implemented in school districts worldwide, and extensive evaluations and research studies indicate the effectiveness of the model. Prior and current research suggests that the model is effective at serving high-ability students in a variety of educational settings and works well in different types of schools across the globe. The SEM has been implemented in schools across the world, specifically, in China, Mexico, Chile, Argentina, Brazil, Canada, the Virgin Islands, Spain, Germany, Portugal, Turkey, Hungary, Holland, Lebanon, Switzerland, Croatia, South Korea, England, Japan, Peru, India, Dubai, Austria, and Switzerland. The SEM focuses on student enjoyment of learning, with a secondary focus on creative productivity in which students pursue and develop their interests. All students deserve the opportunity to develop their talents and the SEM provides these opportunities.
(和訳)
私たちの「スクールワイド・エンリッチメント・モデル(SEM)」に、日本のみなさんが関心を寄せていただけたことを、とても嬉しく思います。SEMは、初期に研究開発された「拡充三つ組モデル(ETM)」と「回転ドア認定モデル(RDIM)」より生み出された、約40年にわたる研究とフィールドテストの産物です。世界中の学区で実施されており、広範な評価と調査によってその有効性が実証されています。
SEMがさまざまな教育環境において高い能力を持つ生徒に効果的であること、世界中のあらゆるタイプの学校で功を奏していることは、先行研究でも現在の研究でも明らかになっています。現にSEMは、中国、メキシコ、チリ、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、バージン諸島、スペイン、ドイツ、ポルトガル、トルコ、ハンガリー、オランダ、レバノン、スイス、クロアチア、韓国、イギリス、日本、ペルー、インド、ドバイ、オーストリア、スイスといった世界中の学校で導入されています。
SEMは、まず第一に「生徒が学びを楽しむこと」、次いで「自分の興味を追求し発展させる創造的生産性」に焦点をあてています。すべての生徒が自分の才能を伸ばす機会を持つべきです。SEMはその機会を提供しています。